韓国で学生や20代に「一番早く大金を稼げるバイトは?」と聞けば、3回目までには必ず出てくる答えがある。治験だ。
数日病院に寝ているだけで200万ウォンがもらえる、あのバイト。韓国のネットコミュニティでは20年以上、マルタのバイトという物騒なあだ名で呼ばれてきた。実際にはどんな仕事で、本当にそれだけもらえるのか、そして外国人がなぜ参加できないのか——数字で整理した。
まず結論から
- 治験アルバイトの謝礼は税引き後で35万〜250万ウォン。病院に泊まる日数で決まる。
- 一度参加すると6ヶ月は再参加できない。だから「仕事」にはなり得ない。
- 外国人は事実上参加不可——言語・本人確認・ビザの三重の壁がある。
治験アルバイトって、そもそも何?
特許が切れた薬の後発医薬品(ジェネリック)が、先発薬とまったく同じように体に吸収されるかを確かめる試験——正式には生物学的同等性試験(BE試験)だ。 製薬会社がジェネリックを売るには「うちの薬も先発薬と同等に吸収される」ことを証明しなければならず、その証明は最終的に人間の体からしか得られない。そこで健康な成人を集め、2つの薬を時間をずらして飲ませ、採血して血中濃度の推移を比べる。
ここが肝心だ。まったく新しい物質を世界で初めて人間に入れるわけではない。 対象は何十年も売られてきた薬の成分だ。「マルタ」というあだ名は、その物騒な響きだけで付いた。戦時中に人体実験の被験者を指した隠語(丸太=マルタ)に由来するが、試験の中身とは無関係だ。
応募すれば誰でもできるわけではない
一番誤解されているのはここだ。これは「誰でもできるバイト」ではなく、健康診断を通過しなければならないバイトだ。
スクリーニングで落とされる項目:
- 喫煙者 — 事実上、脱落理由のほとんどを占める
- 高血圧・低血圧
- 脂肪肝、椎間板ヘルニア、関節炎、喘息、気胸、アトピーなどの基礎疾患
- 服用中の薬がある場合
- BMI18未満または30超
なぜこれほど厳しいのか
薬の吸収速度を比べる試験だからだ。参加者の体に変数が多いと、データが意味を失う。喫煙・飲酒・基礎疾患・服用薬はすべて吸収に影響する。参加者を守る面もあるが、根本的にはデータを守るための条件だ。
だからスクリーニング検査(採血・心電図・尿検査)を受けに行って、落とされる人が結構いる。スクリーニングは通常ノーギャラか、わずかな交通費が出るだけだ。
実際、何日間、何をするのか?
スケジュールは試験によって違うが、おおよそこんな形だ。
📋 治験の期間別・おおよその謝礼レンジ
| 形式 | 入院 | おおよその謝礼 |
|---|---|---|
| 短期・2回入院型 | 1泊2日 × 2回 | 35万〜60万ウォン |
| 標準型 | 2泊3日 × 2〜4回 | 70万〜120万ウォン |
| 中期・連続型 | 6〜7日連続 | 120万〜180万ウォン |
| 長期・連続型 | 12泊13日 | 200万〜250万ウォン |
1日はだいたいこう流れる。前日の夜に入院して絶食し、朝に薬を飲む。ここからがこのバイトの本番だ。投与後1〜2時間は15〜20分おきに採血が続く。 腕にラインを刺したままベッドに座り、その後は間隔がだんだん空いていき、24時間後、48時間後まで続く。
採血の合間は全部待ち時間だ。病院のベッドでスマホを見るか、Netflixを見るか、寝るか。経験者が口をそろえて言うのは「つらいんじゃなくて、退屈」という言葉だ。
韓国人が実際にやる準備
- モバイルバッテリーとイヤホン — ベッドの近くにコンセントがあるかは運次第だ
- 絶食時間が長い。「終わったら何を食べるか」を参加者同士で話すのが恒例になっている
- 腕の採血痕は数日残る。半袖を着る予定があれば考慮を
では、時給に換算すると割のいいバイトなのか?
ここが面白いところだ。2026年の韓国の最低賃金は時給10,320ウォン。 12泊13日の試験で250万ウォンをもらったとして、その13日間を24時間ずっと拘束されたとして計算すると、時給8,000ウォン余り。最低賃金より低い。
税金も知っておくと役に立つ。このお金は給与所得ではなく雑所得として扱われる。4大社会保険には加入せず、案内される金額は通常税引き後。翌年5月の総合所得税申告で一部が戻ってくることもある。
治験以外にもある、韓国の伝説的な高額バイトたち
「短期間で大金」という条件で韓国のコミュニティで毎年話題になるものたちがある。大半に共通点が一つある——誰もやりたがらない時間帯や条件で働くということだ。
外国人でもできる?
率直な答え
治験バイトは事実上不可能だ。理由は3つ。
- 言語 — 治験の同意手続き(IRB規定)は、参加者がリスクを完全に理解したことを確認しなければならない。書類も説明もすべて韓国語だ。
- 本人確認 — 6ヶ月の再参加制限を確認する履歴照会が、住民登録番号ベース。
- ビザ — 観光ビザ(B-2)やビザなし入国では、いかなる有償活動も違法。留学生(D-2)も時間制の就労許可を別途得る必要があり、その許可範囲にこうした活動は含まれない。
韓国に在留資格を持つ外国人が実際にやる短期の仕事は別にある。映画・ドラマのエキストラ(外国人の顔への需要はコンスタントにある)、ネイティブの会話パートナー、観光通訳の補助、ブランドイベントのモデルなどだ。ただ、これらもビザによって可否が分かれるため、必ず自分の在留資格を先に確認すること。
この話が教えてくれること
治験バイトが韓国のネットで20年以上語り継がれるのは、実は金のためだけではない。体を数日貸して、まとまったお金を作るという選択肢が存在するということ自体が、学費や保証金を急に必要とする20代にとって、ひとつの象徴のように固まっている。
旅行者には縁のない話だ。だが、韓国の20代がコーヒー代を節約する代わりにどんな計算をしながら生きているのか——その断面をここまで凝縮して見せてくれる題材は珍しい。
データと出典
- ナムウィキ — 生物学的同等性試験のアルバイト(謝礼レンジ、参加条件、採血間隔)
- メディクレオ — 試験参加時に提供されるもの(謝礼)(支払い方法、雑所得扱い、4大社会保険への不加入)
- 雇用労働部 — 2026年適用の最低賃金 時給10,320ウォン
- 時事ジャーナル — 治験「マルタのバイト」の濡れ衣(あだ名の由来と実態の違い)